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仕事やプライベートで気分を切り替えることができないとき、アロマオイルなどを生活に取り入れて心身のバランスを整える人も増えてきています。今回は、小川香料株式会社のフレグランス開発部部長の佐久間克也氏にお話を伺いしました。
香りは「時代の鏡」 まず、前提として、私どもはいい匂いを「香り」、くさい匂いを「臭い」と呼んでいます。
「香り」は、わたしたちの生活に寄り添いながら変化をしてきました。特に日本人は、香りが好きな民族なんです。古くから香(こう)などを楽しむ文化があり、一部の貴族階級にとっての楽しみとしての役割を果たしてきました。
もうひとつ注目したいのは「環境臭」。これは、私たちの生活の中で発生している臭い全般を指します。昔は、トイレが水洗ではなく、お風呂も毎日入る習慣がなく、今と比べて「環境臭」が強く発生していました。そんななか、当時の人々は、畳、花、季節の果物など、身の回りにある「いい香り」を楽しんでいました。-
しかし、高度経済成長を経て、インフラが整備されたことにより、生活の中の「臭い」は消えていきました。経済的にも豊かになったことで、香水やアロマなどを楽しむようになったのです。さらに現在では、柔軟剤や洗剤、シャンプーなど、香りのバリエーションが大幅に増え、私たちが香りに触れる機会はどんどん増えています。
最近では、現代のストレス社会を反映してか、リラックスできる香りを求める消費者が増えているのも事実です。このように、香りは、その時どきの社会の状況を生きる人々の気持ちを反映した「時代の鏡」ともいえるものなのです。
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今、香りのトレンドは「食べ物系」 香りにもトレンドがあります。このトレンドは、先述した時代の流れだけでなく、その地域ごとによっても異なります。また、ファッションブランドによってトレンドが作られていく側面もあり、常に流動していくものといえます。
最近のトレンドとして知っておきたいキーワードは「グルマン系」。グルマン(gourmand)は、フランス語で“食いしん坊”を意味しているように、食べ物に関連した香りのことを示します。フルーツなどのジューシーな香りや、バニラなどの濃厚な香りも含まれ、どちらも人気が高いトレンドの香りといえるでしょう。
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香りを感じる仕組み
私たちは、いい香りをかいだとき、即座に「いい香り!」と感じます。この時、私たちの身体は、“香り”をどのように感じ取っているのか気にする人は少ないかもしれません。香りは、身体の中で電気信号に変換し、感情をつかさどる脳の「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」に届きます。この大脳辺縁系のなかにある「視床下部」を通じて自律神経系、内分泌系、免疫系へと影響を及ぼします。
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香りで多幸感がアップする!? 脳内で働く、神経伝達物質のひとつに「β-エンドルフィン」というものがあります。耳慣れない言葉かもしれませんが、鎮痛作用、爽快感、多幸感を引き起こす神経伝達物質で、鎮静作用を持つ「モルヒネ」の6倍もの鎮静作用があるとされています。このβ-エンドルフィンが分泌されるタイミングは2つあります。ひとつは人間が「気持ちいい」と感じている時。もうひとつは、過度のストレスがかかった時、ストレスから身体を守るための反応として、分泌されます。
このβ-エンドルフィンの量を、香りを与えた状態で計測する実験をおこなったところ、一部の香料の香りを嗅いだときに、β-エンドルフィンの量が増えました。つまり、香りをかぐことで、ストレスを自力で解消できるような脳内物質が分泌されると考えられます。
香りの歴史は長く、わたしたちの生活に深く根ざしたものであるということがわかりました。知っているようで知らなかった香りの知識。これから香りを楽しむときは、少し意識してかいでみると、また感じ方が変わるかもしれません。
- 香りによる効果
- 香りについて
小川香料株式会社
フレグランス研究開発部長佐久間 克也1988年城西大学大学院薬学研究科修了後、漢方の外用効果を研究し博士(薬学)取得。化粧品メーカー勤務を経て、小川香料株式会社入社。香料素材を研究する機能研究所の所長から、現在、香粧品香料と日用品香料を開発する部署に異動してフレグランス研究開発部部長となる。